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最高裁判所第一小法廷 平成5年(行ツ)109号 判決

埼玉県川越市大字萱沼二六〇七番地五

上告人

佐藤善祐

右訴訟代理人弁護士

長浜隆

齋藤輝夫

同弁理士

小林哲男

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 麻生渡

右当事者間の東京高等裁判所平成四年(行ケ)第一〇三号審決取消請求事件について、同裁判所が平成五年三月一七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人長浜隆、同齋藤輝夫、同小林哲男の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき若しくは原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 大堀誠一 裁判官 味村治 裁判官 三好達 裁判官 大白勝)

(平成五年(行ツ)第一〇九号 上告人 佐藤善祐)

上告代理人長浜隆、同齋藤輝夫、同小林哲男の上告理由

一、本願商標が使用される商品との関連性認定の欠如

本願商標(上告人が昭和五六年一二月二三日に昭和五六年商標登録願第一〇六八一五号として登録出願した商標。なお後に指定商品については補正がなされている。)がその登録を拒絶された根拠は商標法四条一項一五号である。

ところで、右商標法四条一項一五号の要件としての「出所の混同」は、現実に出所の混同の有無を個々に調査することなく商標登録を排除するための概念としての「一般的出所の混同」ではなく、現実に著名(登録)商標との関係において出所の混同を生ずるおそれがある場合の概念としての「具体的出所の混同」を言うとされている。つまり、著名商標と具体的出所の混同を生ずるおそれのある商標は、一般的出所の混同を生ずる範囲(出願された商標と登録商標とが同一又は類似であって、その出願商標の指定商品が登録商標の指定商品と同一又は類似である場合のこと。)の外にあるものであっても拒絶される。(以上については綱野誠・判例商標法(社団法人発明協会)一八一ページ以下の判例批評参照)

このように、商標法四条一項一五号の場合には、一般的出所の混同の範囲を越えて、著名商標に他の者の商標登録を阻止する権能を与えているので、右法条の要件を備えている場合か否かを注意深く検討する必要があることは当然の事である。

前記の「具体的出所の混同」を認定する要件として、右法条に言う「他人の業務に係る商品(著名商標の使用されている商品)」と本願商標の商品(本件で具体的に本願商標が使用されている商品は理化学機械器具のうちの教育用顕微鏡及び工業用顕微鏡である。)との間に密接な関連性が存在することが必要と解釈され、かつ、特許庁において平成四年三月二六日に決定された審決においても「密接な関連性」を認定している(審決書三ページ)。

上告人は、原審において、「密接な関連性」を争ったにもかかわらず、原判決は「他人(本件においては訴外明治製菓株式会社。以下明治製菓という。)の業務に係わる商品(著名商標の使用されている商品)」と「本願商標に係る商品」との間の「密接な関連性の存在」について判断せず、漫然と「出所の混同のおそれ」を認定している。

右の点に関しては、特許庁の審決は「本願の指定商品に含まれる『実験用ガラス器具、生物顕微鏡、精密測定機械器具、自動調節機械器具』等は、申立人の業務に係る『医薬品、医療用機械器具』と使用の時期や場所(例えば、病院、薬局)等を同じくする場合も多く、密接な関連を有しているとみられるものである。」と述べ、具体的に双方の商品を特定して密接な関連性を認定している。

原審は、結局のところ、商標法四条一項一五号の該当性を認定するにあたって必要な前記「密接な関連性」の判断をなさなかったか、あるいは判断をなしたとしてもその事を記載しないことにより、審理不尽、理由不備ないしは商標法四条一項一五号の解釈、適用を誤った違法がある(民事訴訟法三九四条、三九五条一項六号)。

右のような、具体的に双方の商品を特定してその間の密接な関連性の存否を判断することが商標法四条一項一五号の該当性判断にあたって重要であることは、後記二、三記載の上告理由からも明らかである。

二、商標法四条一項一五号の解釈、適用を誤った違法があること

前述したように、原判決が商標法四条一項一五号の該当性を判断するにあたり、「他人の業務に係る商品(著名商標の使用されている商品)」及び「本願商標に係る商品」として、それぞれ何を念頭に置いていたかは必ずしも明らかでないが、仮に前者(訴外明治製菓の業務に係る商品)について「医療用機械器具」を念頭に置いていたとすれば、明治製菓の医療用機械器具に使用されていた商標は、原判決別紙(3)下段の

〈省略〉

(商標出願公告昭和五六-五二七六五)(甲第五号証)(以下マルメイジ商標という。)である(乙第八号証)。なお、特許庁の本件審決が言うように、商標法四条一項一五号との関係における明治製菓の業務に係る商品が医薬品、医療用機械器具の両方だとしても、医薬品に使用されている商標も又、右「マルメイジ商標」である(乙第四号証)。従って、需要者が明治製菓の医療用機械器具、医薬品をイメージする時に思い浮かべる商標は右「マルメイジ商標」である。従って、本願商標を使用する上告人商品である教育用顕微鏡、工業用顕微鏡と明治製菓の医療用機械器具等との間の混同を問題にする時に比較すべきは右「マルメイジ商標」と本願商標であるべきである。

しかるに、原判決は、商標法四条一項一五号の混同の有無を判断するにあたり、明治製菓の商標として原判決別紙(2)の「Meiji」なる商標が著名性を有することとなったとして、これを本願商標と比較している。

従って、原判決は比較すべき商標を誤るという、商標法四条一項一五号の解釈あるいは適用上の誤りを犯したものであり、従って又、同条の適用にあたり本来比較すべき商標間の混同の有無を検討していないという審理不尽、理由不備の違法がある(民事訴訟法三九四条、三九五条一項六号)。

なお、念のため、「マルメイジ商標」と本願商標の間の混同の有無を考察すると、特許庁作成の商標審査基準は商標法四条一項一五号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるか否かの判断にあたり考慮する要素の一つとして「その他人の標章が創造標章であるかどうか」を上げているが、右マルメイジの商標の構成要素である「Meiji」は創造標章ではないし、又、マルメイジ商標の称呼はマルメイジであり、さらに、その外観も本願商標と異なるので、右商標間に混同のおそれはない。

三、採証法則の適用の誤りがあること

原判決はその判決書一四ページにおいて、「訴外会社は…医療機器及び理化学機械器具を含む機械の分野においても事業を行っていること」と述べている。もし原判決が商標法四条一項一五号の「他人の業務に係る商品」としてこの理化学機械器具を上げているのであれば、本願商標の指定商品が理化学機械器具であるだけに、原判決の結論に大きな影響を与えたと推察できる。

ところが、明治製菓が理化学機械器具の分野において事業を行っていることは証拠上到底認定できない(従って、又、明治製菓の理化学機械器具に具体的にどのような商標が付されているかの認定もない)。

すなわち、被上告人提出の書証には、明治製菓の医薬品、医療機器の写真は掲載されているが、理化学機械器具の写真は全く掲載されていない。もし、真実、明治製菓が理化学機械器具の事業を行っているのであれば、これらの写真の掲載があるはずである。従って、原判決が、明治製菓が理化学機械器具の事業を行っていたと認定したのは経験則ないし採証法則の適用の誤りを犯したものである(民訴法三九四条)。

四、採証法則適用の誤り、審理不尽、釈明権不行使の違法(釈明権不行使の著しい不当)があること

原判決は、「(上告人が)甲第八号証の一ないし八、第九号証の一ないし二二を提出し、(商品の出所につき)混同のおそれがないことを立証しようとするが、同号各証により認められる各証明書は、本願商標との関連が何ら記載されていないから、これをもって、上記認定を覆すことができない。」(原判決一五ページ)と述べて、これらの書証の内容を混同のおそれの有無の判断資料として実質的に検討していない。

しかしながら、上告人が長年にわたって、自己が経営するメイジテクノ株式会社(その旧商号は明治ラバックス株式会社)の顕微鏡に本願商標を付して販売してきたことは弁論の全趣旨からも明らかであり、従って、甲第八及び九号証は、上告人が自己の会社の商品(なお、本件では上告人の商品と上告人自身が経営する会社の商品は同一視できる。)である顕微鏡に本願商標を付して販売しても、顧客が決して明治製菓の商品と混同するおそれはないことを表していることは明らかである。従って、原判決が、これらの書証について「本願商標との関連が何ら記載されていない」という一事をもって、これら書証の実質的検討を怠ったことは、採証法則適用の誤りないし審理不尽の違法がある。

又、上告人がこれら書証を「混同のおそれがないこと」の立証として提出したのは明らかなのであるから、もし、前記書証と本願商標との関連が裁判所にとって必ずしも明らかでないのであれば、原審は上告人に対し本願商標との関連を問いただすべきであったのであり、その意味で、原判決には釈明権不行使の違法(釈明権不行使の著しい不当)があると言わざるを得ない。

以上いずれの点よりも原判決は違法であり、破棄されるべきである。 以上

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